👻 25年前の亡霊がAIブームに蘇る? — 私はやはりバブルの申し子かもしれない
先日、私はAIインフラ投資の爆発的な拡大について、構造的なリスクを整理した記事をnoteに公開しました。その原稿を書きながら、背筋が冷えるような強烈な「既視感」を覚えました。
世界では、生成AIの進化を支えるために、何兆円もの資金がデータセンター、送電網、半導体、冷却設備に流れ込んでいます。その勢いは国家予算を軽く超える規模で、確かに“新産業革命”と呼ぶにふさわしいものです。
しかし、その熱狂の裏側に、25年前の二つのバブル──エンロン事件とドットコムバブル──の亡霊が静かに息を吹き返していると感じたのです。
私は世界でバブルが発生する時には、なぜかその現場に居合わせているような気がします。もしかすると、私はやはり「バブルの申し子」なのかもしれません。
1. エンロンの亡霊──“あるように見せて、ないものを膨らませた”構造
■ エンロンとは何者だったのか
エンロンは1980年代に誕生したアメリカのエネルギー企業で、 規制に守られた電力・ガス市場へ自由競争原理を持ち込んで自由化を主導し、「エネルギーを金融商品として取引する」市場を作り出した立役者。 オンライン取引プラットフォームを構築し、金融工学を組み合わせ、「21世紀のビジネスモデル」を掲げて世界中の称賛を浴びていた存在でした。
当時は、
「アメリカで最も革新的な企業」
「21世紀型ビジネスの象徴」
「規制産業に市場原理を持ち込んだ先駆者」
と絶賛され、メディアの寵児でした。
しかしその成功の多くは、後に明らかになる会計操作と負債隠しの上に築かれていました。
エンロンは数百社のSPE(特別目的事業体)を使い、
- 巨額の負債
- リスクの高い資産
- 損失を生みそうな投資
を会社の帳簿から“外部の箱”に移し、実態は親会社であるエンロンが保証を行っていたため、リスクは一ミリも外部化されていなかったにもかかわらず、表面上はリスクが全く残っていないスリムで健全な企業に見せかけていたのです。
当時の会計基準では、「保証した負債でも、帳簿に戻す必要がなかった」。
すなわち、
リスクはそのまま、数字上の負債だけ消せる。
この“抜け道”をフル活用し、エンロンは本体の財務を実態よりも驚くほどスリムで健全に“見せかける”ことに成功した訳です。この事件の後に会計ルールも見直され、現在ではこのようなことは出来なくなっています。
さらに、MTM(Mark-to-Market)という制度を乱用し、投資などの将来の利益を「今の利益」として計上することで、永遠に成長しているかのような数字を作り続けました。
- “将来これくらい儲かるだろう”と見込んだ瞬間に利益として計上
- 損失はSPEに押し込める
- 利益は未来から前借りする
この構造で、エンロンは「永久に成長する企業」のように見えたのでした。
最終的に実態が露呈した瞬間、株価は99%下落し、エンロンは消滅しました。あおりを受けて当時の5大監査法人の1つアーサー・アンダーセンも消滅しました。
■ では、なぜここまで歪んだのか
エンロンの不正の根底には、構造だけでは説明できない“人間の欲望”がありました。
- 株価さえ上がれば、経営陣は巨額のストックオプションを得られる
- 「最も革新的な企業」という称号を失いたくない
- 投資家とメディアの熱狂が、数字の継続的な上積みを要求する
数字を守るために現実を歪め、虚構を積み上げ、負債を隠し、未来を前借りする。
バブルは構造で膨らみますが、
それを暴走させるのは、いつも“人間の欲望”です。
2. AIインフラ投資に漂う「構造的な既視感」
現代のAIインフラ投資には、エンロンのような不正は確認されていません。
すべて合法で、合理的で、産業全体に必要な投資です。
しかし──構造が驚くほど似ているのです。
代表例がBTS(Build-to-Suit)モデルです。
- ハイパースケーラーは外部のデータセンター開発業者に建設させ
- 長期利用契約を担保に、外部で資金調達させ
- 自社のバランスシートに負債を載せない
完全に合法で、資本効率も高い。しかしその結果、
巨額の負債がハイパースケーラーの表面から消え、
プライベートクレジット市場という透明性の低い領域に沈んでいく。
これは、エンロンが行った負債外しの構造と非常に近いものがあります。
AIインフラの全体像については、当サイトのAIカテゴリ一覧(→ https://ookikei.com/category/ai-technology/)にも整理しています。
3. ドットコムバブルの亡霊──“無用の長物”が生まれる構造
1990年代後半、人々はインターネットの未来を信じすぎ、多くの企業が需要を過大予測し、莫大な光ファイバーを敷設しました。しかし、高い回線利用料を支払ってまで光ファイバーを使用してインターネットビジネスを展開しようとする企業は想定を大きく下回りました。
結果、需要が追いつかず、多くの企業が破綻し、設備は「無用の長物」になりました。
いまのAIインフラも、同様にきわめて楽観的な予測の上に成り立っています。
- AI収益は2028年に1兆ドル
- 計算需要は指数関数的に伸び続ける
もしこの予測が外れれば、データセンターやGPUは一気に座礁資産になります。
4. そしてAIには、ドットコム時代にはなかった“新しい亡霊”が潜む
AIインフラが抱える最大の特徴は、技術的陳腐化の速さです。
- GPUは1〜3年で価値が急落
- 担保価値がローン期間に耐えない
- 冷却システムすらチップ更新で陳腐化する
つまり、
需要の外れによって無用の長物になるだけでなく、
技術の進歩によって無用の長物になる可能性がある。
AI時代特有の多重リスクです。
🕯️ 風化した亡霊が、まさかこんな形で
AIインフラブームは、
- エンロン的な「負債の外部化」
- ドットコム的な「未来への過信」
という25年前の最も危険な教訓を、複合的に内包しています。
しかも今回のバブルは、大半の負債がプライベートクレジット市場という目に見えない場所に沈んでいます。
私は、ひとつだけ静かに祈っています。
この巨大なAIバブルの裏側に、
エンロンの時のような“人間の悪意”が潜んでいないことを。
歴史が教えるのは、
構造がバブルを膨らませ、人間の欲望がそれを壊す。
ということです。
AIが未来を切り開くためにも、
この“人間の影”を軽視することはできないと感じています。
5. 私の提言──亡霊を再び呼び覚まさないために
AIインフラ投資の透明性を確保するために、私は次の点を求めたいと思います。
- 大規模利用契約が実質的にどの程度の負債に相当するのか、財務報告に明確に開示すること。
- 陳腐化の早いGPUを担保にする融資について、より保守的な評価モデルに変更すること。
- プライベートクレジット市場に集まるAI関連負債の透明性と監督を強化すること。
負債を“分離する”ことはできますが、
“隠す”ことは許されるべきではありません。
■ それでも、私は最後に一つだけ書き添えておきたいことがあります。
歴史には、危うさと同時にもうひとつの側面があります。
ドットコムバブルは多くの企業を飲み込みましたが、その瓦礫の上から Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft という現在の巨大プラットフォーマーが育ちました。
壊れるものの中から、新しい秩序が立ち上がる。
これは、パンドラの箱に最後まで残った“希望”のようなものだと感じます。
AIバブルも同じ道をたどるのか、それともまったく異なる未来へ進むのか。
それは、私たちがこの構造の危うさと向き合い、透明性を確保できるかどうかにかかっていると思います。

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