ゴッホと言えばオランダを代表する画家のひとり。アムステルダムにはゴッホ美術館もあり、世界中から多くの人が訪れます。代表作はやはり《ひまわり》ですが、そのせいか「黄色い画家」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
しかし、私にとってのゴッホは「青い絵」、とくに 夜空を描いた作品 なのです。私の知る限り、このカテゴリーに入るのは4点。そのうち2点は実際に美術館で鑑賞し、接写で写真を残すことができました。
青い夜のゴッホ作品、4つの名画
私が知る限り、ゴッホの「青い夜の絵」に分類できる作品は4つ。
- 星月夜(1889)
- ローヌ川の星月夜(1888)
- 夜のカフェテラス(1888)
- 糸杉と星の見える道(1890)
私は絵画の専門家でもなく、祖父が日本画家だったというだけの素養しか持ち合わせていませんので、あくまで私の視点から語ってみたいと思います。
星月夜(The Starry Night)
「青い夜の絵」と聞いて真っ先に思い浮かぶのはこの作品でしょう。渦巻く夜空と糸杉のシルエットはあまりにも象徴的です。
残念ながら所蔵はオランダではなくニューヨーク近代美術館(MoMA)。まだ実物を観たことはありません。
ただこの絵を前にすると、私の感性では「美しい」と同時に「切羽詰まった感覚」が強く漂ってきます。圧倒的に迫力がありながら、どこか不安や狂気を帯びている──そんな印象です。

ローヌ川の星月夜(Starry Night Over the Rhône)
同じ「星月夜」でも、私の好みはこちらの「ローヌ川の星月夜」。アルルで描かれた作品で、水面に映る街灯と星の光が静かな情緒を漂わせます。現在はパリのオルセー美術館に収蔵されています。
大学卒業旅行でオルセー美術館を訪れた際に観た記憶があるのですが、37年前のことなので記憶は定かではありません。ただ、同じ旅行で見たレンブラントの「夜警」の衝撃ははっきり覚えているので、当時はまだ「青いゴッホ」に惹かれる自分ではなかったのかもしれません。

夜のカフェテラス(Café Terrace at Night)
私が最も好きなのが、この「夜のカフェテラス」。クレラー=ミュラー美術館(オランダ)に所蔵されています。
深夜にポツンと灯りをともすカフェ。そこにふらりと立ち寄り、コーヒーを片手に本を読んだり音楽を聴いたり──そんな自分を想像すると、人生が豊かになったような気分になるのです。

実際に美術館で撮影した写真が手元にあります。オランダの美術館は日本と違って驚くほど無防備で、作品に手が届くほど近くで鑑賞できます。
星の厚塗りが奥行きを表していますが、「星月夜」の様な圧迫感はありません。ここに描かれた星座は山羊座と顕微鏡座の一部とする説もあればみずがめ座とする説もあるそうですが、秋の星座であることは確からしいのですが、どの星座かは定かでないらしいとのことです。

近くで見ると、人物のラフなタッチが見て取れます。

おかげで筆のタッチ一つひとつが息遣いとして感じられました。「夜のざわめき」が音を伴って伝わってくるようでした。
糸杉と星の見える道(Road with Cypress and Star)
こちらもクレラー=ミュラー美術館に収蔵されている作品。
夜空に浮かぶ星と糸杉のシルエットが強烈な印象を残します。「夜のプロヴァンスの田舎道」の名称でも知られています。
この作品と「星月夜」は、1889年にサン=レミの療養所で描かれたものです。精神的に不安定な時期だったこともあり、月や星の描き方には「星月夜」に共通する緊張感が感じられます。

こうして近付いてみると三日月の見えない部分も同心円状に書かれていることが分かります。

月とは対照的にぼやけた星も、しっかりとした筆使いで描かれています。

青という色の意味
私の好きな色は青です。
けれど、絵画における青はしばしば「精神の不安定さ」を映し出すものとして語られます。ピカソが「青の時代」を過ごしたとき、彼は深刻な鬱に苦しんでいました。ゴッホのサン=レミの療養所で青い夜空を描き続けた時期と重なるものがあります。
しかし、だからこそ、この青には「怪しいほどの美しさ」が宿っているのではないでしょうか。
クレラー=ミュラー美術館を訪れて
クレラー=ミュラー美術館はオランダの国立公園内にあります。ゴッホの名画を数多く所蔵するだけでなく、モダンアートや彫刻も充実しており、美術と自然を一度に楽しめる特別な場所です。
オランダを旅行される際には、アムステルダムのゴッホ美術館だけでなく、このクレラー=ミュラー美術館もぜひ訪れてみることをおすすめします。
まとめ
「ひまわり」で有名なゴッホですが、私にとっての彼は「青い夜の絵の画家」です。
星月夜、ローヌ川の星月夜、夜のカフェテラス、糸杉と星の見える道──。
それぞれの作品に込められた光と影を味わうと、ただの「黄色い画家」というイメージを超えて、ゴッホの精神や人生の奥行きに触れられるように思います。
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